ときなきものを

和我世故乎 安杼可母伊波武 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 登吉奈伎母能乎

わがせこを あどかもいはむ むざしのの うけらがはなの ときなきものを

 

吾が背子を何どかも云はむ武蔵野のうけらが花の時なきものを

きみまちがたに

多迦比迦流 比能美古 夜須美斯志 和賀意富岐美 阿良多麻能 登斯賀岐布礼婆 阿良多麻能 都紀波岐閇由久 宇倍那宇倍那 岐美麻知賀多爾 和賀祁勢流 意須比能須蘇爾 都紀多々那牟余

たかひかる ひのみこ やすみしし わがおほきみ あらたまの としがきふれば あらたまの つきはきへゆく うべなうべな きみまちがたに わがけせる おすひのすそに つきたたなむよ

 

高光る 日の御子 やすみしし 吾が大君 あら玉の 年が来経れば あら玉の 月は来経往く 諾な諾な 君待ちがたに 吾が著せる 襲の裾に 月立たなむよ

 

つきたちにけり

比佐迦多能 阿米能迦具夜麻 斗迦麻邇 佐和多流久毘 比波煩曾 多和夜賀比那袁 麻迦牟登波 阿礼波須礼杼 佐泥牟登波 阿礼波意母閇杼 那賀祁勢流 意須比能須蘇爾 都紀多知邇祁理 

ひさかたの あめのかぐやま とかまに さわたるくび ひはぼそ たわやがひなを まかむとは あれはすれど さねむとは あれはおもへど ながけせる おすひのすそに つきたちにけり

 

ひさかたの 天の香山 利鎌に 真渡る鵠 弱細 手弱腕を 纏かむとは 吾はすれど さ寝むとは 吾は思へど 汝が著せる 襲の襴に 月立ちにけり

 

こころはもへど

知波夜比登 宇遅能和多理邇 和多理是邇 多弖流 阿豆佐由美麻由美 伊岐良牟登 許々呂波母閇杼 伊斗良牟登 許々呂波母閇杼 母登幣波 岐美袁淤母比伝 須恵幣波 伊毛袁淤母比伝 伊良那祁久 曾許爾淤母比伝 加那志祁久 許々爾淤母比伝 伊岐良受曾久流 阿豆佐由美麻由美

ちはやひと うぢのわたりに わたりぜに たてる あづさゆみまゆみ いきらむと こころはもへど いとらむと こころはもへど もとへは きみをおもひで すえへは いもをおもひで いらなけく そこにおもひで かなしけく ここにおもひで いきらずぞくる あづさゆみまゆみ 

 

ちはや人 宇治の渡に 渡瀬に 立てる 梓弓檀 い伐らむと 心は思へど い取らむと 心は思へど 本方は 君を思ひ出 末方は 妹を思ひ出 苛けく そこに思ひ出 愛しけく ここに思ひ出 い伐らずぞ来る 梓弓檀